ドキドキ 今度は少し歩を早めて幸乃、
「柚香、柚香。」

柚香、
「おばあちゃん、おばあちゃん。」

美祢もふたりに駆け寄り、
「うんうん。良かった~~。ここにいたんだ~~。」

車椅子の上から柚香を抱き締める幸乃。

車椅子の中で、
「おばあちゃん。おばあちゃん。」

幸乃、
「うんうん。大丈夫だよ~~。おばあちゃん、傍にいる。傍にいる。うんうんうん。」

美祢、
「ここにいたのね。うん。良かった~~。」

幸乃、抱き締めた両の手を解いて、
「景色、見てたのかぃ。」

その声に、
「うん。」

そして、幸乃を見ながら、
「おばあちゃん…。」
少し顔を傾げて、
「老けた…???」

その声に幸乃、思わず目をパチクリとさせて…。けれども、いきなり笑顔で、
「ははは。な~~に、言ってる~~。まっ。確かにね~~。」

美祢も笑顔で…、
「……。」

「おばあちゃんだって、いつまでも、若くは…はは。」
そして幸乃、
「景色、見てたのかい。」

その声に、
「うん。」
そして、
「初めて見る景色。」

幸乃、そんな声に、
「うんうんうん。そうだろ、そうだろ、初めてだよね~~。病院の屋上から見る景色。」

「ううん。違う。私、初めて見るの、こういう景色。何だか…。私、今まで、ず~~~っと、長い間、眠っていたような…。…だから、見るもの、見るもの、全部が初めて。」

その声に幸乃、
「えっ…???」

美祢も、
「…ん…???」

「ねね、おばあちゃん、あの高~~い、細~~い、棒みたいなの、何…???」

幸乃、目をパチクリとさせながら、
「あ、あ~~。あれかぃ。あれは…、スカイツリーって言って…。」
そして幸乃、看護師を見る。

美祢、幸乃を見て、俄かに顔を曇らせる。

「凄~~い、おっきぃ~~。背ぇ高のっぽだ~~。へぇ~~。ねね、おばあちゃん、あれは…???あの…、赤いの…???」

その声に幸乃、
「あぁ。あれは…、東京タワー。」

そして幸乃、看護師に、
「看護婦さん。」

美祢、僅かに頷くように。

幸乃、
「柚香~~。そろそろ病室、戻らないと…。ね。」

その声に、
「だから~~。私は、柚香じゃなくって~~。陽織~~。そもそも、お姉ちゃん、何処…???…それに、おかあさん、おとうさんも…。何処にいるの…???」

幸乃、自分の耳に入ってきたその声に、いきなり目を見開いて…。

美祢、すぐさまスマホで…。
「…先生…。すみません。……。」

熊沢、スマホに、
「分かりました。屋上ですね。今行きます。」

屋上に辿り着いた熊沢、数名がいる屋上で、ベンチに座って項垂れている老婆と、
その老婆の傍の看護師。車椅子に乗ってる女性は遠くの景色を見ている。

熊沢、
「ここにいましたか。」

幸乃、熊沢の顔を見るなり、
「先生~~。」

美祢も、
「先生…。」

熊沢、車椅子に乗っている女性に、
「汀さん。柚香さん。そっか、景色、見ていたか。」

そんな白衣を来た男性に、
「うん。私、こういうの、初めて見た~~。凄いね~~。全然、こういうの、見た事ないから…。」

熊沢、ニコリとさせて、
「そっか、そっか。」

「でもね。」
「うん。なんだろ…???」

「私…、どうして…、車椅子に乗らなきゃ…なんないの…???」

その声にベンチに座って項垂れている幸乃が、両手で顔を覆って、
「あぁ~~。」

看護師が両手で肩を抱く。

熊沢、そんな幸乃を見て、そして柚香を見て、
「そうだね~~。汀さん。柚香さん。…この病院に来たのは、事故に遭ったからなんだ。」

「事故…???」

熊沢、柚香を見て、
「そぅ~~。事故。」

「でもさ~~。私…、そんな…事故って…。全然、記憶ないんだけど…。体…、どこも全く痛くもないし。…でね…???」

熊沢、
「はい。なんでしょう~~。」

「さっきから言ってるけど~~。私~~。柚香じゃなくって~~。陽織だから。」

またもや幸乃、小さな声で、
「あ~~~。」

けれども熊沢、
「あっ。そぅか、そぅか。柚香さんじゃなくって、陽織さん。じゃあ。僕が悪かった、先生が悪かった。ごめんね。許してもらえるかな…???」

その声に陽織、
「許すっていうか~~。そういうのじゃなくって~~。私が事故に遭ったんじゃなくって…。もしかして…、お姉ちゃん。柚香が事故に遭ったの…???ベッドの名前も、私じゃなくって、柚香だし。」
そこまで言って陽織、
「何がなんだか、全く分かんない。」

熊沢、思わず、
「ん~~~。そぅか~~。分かんないか~~。そぅなると~~。先生たちも、一緒に考えなくちゃ、いけなくなるな~~。」

「えっ…???…どうして…???」
「うん。つまりはこういう事だ。この病院に運ばれてきた時の君は…。交通事故で車に撥ねられ、正に重症の状態で運ばれてきた。」

その話に陽織、
「へぇ~~~。じゃあ…。あちこち体…。」
両手の平で体の前でぶらぶらと。

熊沢、
「うんうんうん。物凄い大変な状態。…でぇ~~。家族にも連絡しなきゃならない。申し訳ないけど…。君の学生証。」

「学生証…???」

LIBRA~リブラ~   vol,010.   幸乃、抱き締めた両の手を解いて、「景色、見てたのかぃ。」

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Source: THMIS mama “お洒落の小部屋