ドキドキ  「その家庭の家庭環境、或るいは、生活を別の拠点にすると、また元に戻るというケース。実際に、ございます。ただ…。そういう症状と異なる、また別の症状。」
熊沢。

幸乃、
「先生…。そんな症状って…。まさか…、柚香に…。」

「そうあって、欲しくない。…と。言うのが、今の私の、思いでも、あるんですが…。解離性同一性障害。…もしかしたら…。柚香さんの身体に…、その…、二卵性双生児の陽織さんが…、入り込んだ。何等かの原因で…。」

その話に幸乃、
「はっ…???…柚香の体に、陽織が…。」
目をパチクリとさせて…。けれども、いきなり、
「ぷっ。」

笑いながら、
「いやいやいや。先生。そんなバカな…。陽織は2歳の時に亡くなっているんです。そんな…、死んだ人間が、まさか…、今、生きている柚香の身体になんて…。そんな…。」
そして幸乃、笑いながら、左手を…。熊沢に、
「先生…。下手な冗談。柚香、もしかしたら…、夢を見ているだけですって…。そんな…。そんな…、かいり…なんとかって…。」

熊沢、そんな幸乃にニコリとして、
「まっ。信じられないのも…仕方のない事…。なのですが…。」
そこまで言って熊沢、一度唇を搾って、
「まま。…いや…。」
そして幸乃を見て、
「はは。…そうですね。単に、気のせいかも知れない。…そんな…、既に死んでいる人が体に乗り移ったなんて…。悪い冗談。」

幸乃、熊沢の話を聞きながら、
「そうですよぉ〜、先生〜〜。もぅ〜〜。…そんな…、柚香に陽織が乗り移ったなんて…。そんな…、今のこの、現代社会に…。そんなオカルトみたいな事、ある訳ないじゃありませんか〜〜。」

「はは。確かに。」
そして熊沢、
「申し訳ない、おばあちゃん、汀さん。大事な時間を割いていただいて。」

「いえいえ。とんでもありませんよ先生。はい〜〜。」
そして幸乃、顔だけ熊沢にペコリとさせて、
「じゃ、私は柚香のところに。」
椅子から立ち上がり…。

そんな幸乃を見ながら熊沢、微笑んで…。幸乃、ドアの前でまた熊沢に振り返って一礼を。
熊沢も頭を…。

そしてドアは開いて閉じられる。

「さてさて。」
熊沢、一度腕組みをしながらも、それを解いて右手で頭を掻きながら、
「私は柚香じゃない。陽織。…ですか〜〜。」
そして息を吐いて、
「とんでもない事に、ならなければいいんですが…。」

廊下を歩きながら、数人の人とすれ違う。病室のドアを開ける。
けれどもベッドの掛布団が捲られ柚香の姿はない。そして、車椅子も…。

幸乃、目をキョトンとさせて、
「あれ…???…柚香…。」
そして、
「変ねぇ…。先生と、出て来るって、言っておいたん…だけど…。」
廊下には…見覚えがない。
「もしかして…、また…、売店…???」
病院を出て、近くのエレベーターで階下に。1階の売店に…。けれども柚香の姿はない。
今度は、1階のあちらこちらを車椅子の女性はいないかと隈なく探す幸乃。
けれども、そういう姿は見えない。
幸乃、
「ん〜〜〜???…じゃ…どこ…???…車椅子に乗ってまだ…。そんな遠くには…、いけないはず…。しかも…。」

一度、病室に戻ってはみるが…。考えても、埒が明かない。そのままナースステーションに。

看護師に、頭を下げて、
「すみません。柚香が…。病室に…いないんですよ。私、今まで熊沢先生と話をしていたんですが…。何だか、その隙に、病室から車椅子で出てしまったようで…。」

その話に看護師たち、いきなり厳しい顔をして…。
「分かりました。すぐに。」

看護師たち、顔を見合わせながら…、すぐに動き出す。

幸乃、
「私。今、1階の方は…見て来たんですけど…。」
そこまで言って首を振る。

看護師、
「分かりました。では…。」

看護師同士、
「私は別の棟に。」
「私は脳神経外科の方に…。」
「私は放射線科に。」
「じゃ、私は、内科と小児科。」

幸乃、看護師の石垣美祢と一緒に。

石垣、
「じゃ、私たちは屋上に。」

エレベーターに乗って。

そして…。

幸乃、
「へぇ〜〜。エレベーターで、屋上に〜〜。」

美祢、
「はい。」

そして、
「中庭の方へは…、多分、ひとりではいけないと思います。誰かかしら、声を掛けると思いますので…。」

幸乃、頷きながら…。

そして…。屋上にも、数人の患者が…。
ベンチに座って本を読んだり、点滴台を傍に景色を眺めたり。
そんな中で…、ひとりだけ。車椅子に乗って遠くを見ている柚香の姿が…。

幸乃、
「柚香。」

美祢、
「いましたね。」
そしてスマホで…。それぞれの看護師のスマホにも着信。

そして、それぞれが…、
「ふぅ〜〜。屋上ね〜〜。」
「了解。」
「オッケイ〜〜。」
「見つけました〜〜。」

幸乃、柚香に近づきながら、
「柚香〜〜。」

その名前に…。その声の方に顔を…。
「おばあちゃん…???」

LIBRA~リブラ~   vol,009.   幸乃、「先生…。そんな症状って…。まさか…、柚香に…。」

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※ご本人の承認の下、紹介させて頂いております。

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Source: THMIS mama “お洒落の小部屋