ドキドキ その報せを自宅に掛ってきた電話で知った幸乃は大急ぎで指定の病院に。

霊安室で白い布に覆われている3人。柚香以外の他3名。
汀裕司(みぎわゆうじ)、柚香の父親。享年25歳。
汀萌衣(みぎわもえ)、柚香の母親。享年25歳。
そして、汀陽織(みぎわひおり)、2歳で死亡と言う、余りにも痛ましい事故だった。

幸乃から話を聞いた熊沢は、
「そうでしたか〜〜。そんな…事故が…。…で、後ろからのそのダンプカーの運転手は…???」

幸乃、
「えぇ。そのまま、現行犯逮捕。つまりは、飲酒運転。仕事から帰って、ドライブインかそこらでアルコール摂取。仕舞には、そのままでダンプカーを運転して40キロ制限のところを60キロのスピードで。20キロのスピードオーバー。それで信号待ちの車にそのスピードのままドカ〜〜ン。そのショックででしょう。追突した後、車の中から救出された時には、確かに大怪我は負っていたそうですが、かなりの泥酔だったようです。しかも…、年齢が70過ぎ。…地元の建設会社の人と言う話でしたが…。堪りませんよ。」

その話は熊沢も、顔を僅かに崩して、
「全くです。」
そして、
「この病院にも、緊急救命室と言う場所がありまして、異常なほどの事故で運び込まれてくる患者さん。多いですから…。いつまで経っても、そういう…事故というものは…。」
と、そこまで言って熊沢、
「…と、言う訳で…、汀さん。柚香さんの話に戻りますが…。」

熊沢の声に幸乃、
「あ、はい。」

「柚香さん、私は柚香じゃない。陽織って…。さっき…。」

幸乃、熊沢を見て、
「え、え〜〜。私…、あの子…、何を言っているのか…。さっぱり。全然…訳が分からなくって…。」
そして幸乃、熊沢に、
「先生…???…あの子…。もしかして…、何か、大変な病気…???…それとも…。」
俯き加減に…。
「…もしか…したら…。あの子…、記憶が…。」

熊沢、幸乃を見て、
「おばあちゃん。…汀さん。…もしかしたら…。記憶喪失…か…と…???」

その声に幸乃、険しい表情をして、
「えぇ。」
顔をコクリと。

そして…。暫くの沈黙。

やがて、腕組みしながらの熊沢。
「ん〜〜〜〜。」
腕組みを解いて、左手で口を撫でて…。そして口を搾って…。
「汀さん…。」

幸乃、俯いた顔が熊沢の顔に、
「はい。」

熊沢、幸乃の顔を見て、
「…あくまでも…。これは…、私の憶測でも、あるんですが…。」

「はい。なんでしょう。」
「柚香さん。おばあちゃんに。…私は…、柚香じゃない。陽織。おかあさんとおとうさんはどこ…???…と、言ったんでしたよね。」

その声に幸乃、
「え…???…あ、はい。」

「もし、万が一…。自分を…。柚香さん本人が、自分を…、陽織…と、思っているとしたら…。」

幸乃、いきなり、
「いえ…。先生。…そんなはずは…、決して…。」

「いや…。まま。そんなに…。」
「あ、あ〜〜。」

「これは…、あくまでも…、私の…、憶測でも…、あります。柚香さんが…、今、ご自身を…、そぅ…。陽織と…、思っているの…だと…したら…。」
「あ、はい。」

熊沢、幸乃の顔を見ながら、
「考えられる事は…。」

幸乃、
「先生…。」

熊沢、息を吸って、顔を空に…。そして、
「世の中、まだ医療の分野でも、到底太刀打ちできない病気、そして症状が、幾らでもあります。どんなに治療を施しても、改善出来ない病気、症状。まっ。確かに…。その中に、記憶喪失…と、言う症状もあります。」

「先生。」

「私たち、医療受持者と言えども、患者本人に、なんらかの兆し、または機会、その瞬間、タイミングがもたらされて、ようやく改善にいたる病気。」
そこまで言って熊沢、
「とにかく。ひたすらそのチャンスを待つ以外に方法のない病気、症状、幾らでもあります。…けれども、常に、そのチャンスを…、希望を信じて…。」

そんな熊沢を見て幸乃、
「先生…。何を…???」

「今…。いや…。まだ、憶測の領域ではありますが…。私は柚香じゃない。陽織と…、思っているのであれば…。…恐らく…。」
「おそらく…???」

「解離性同一性障害。」

その声に幸乃、両眉の先端を吊り上げて…、
「かいり…せい…。…はっ…???」

熊沢、再び、
「解離性同一性障害。…つまりは…。…多重人格。」

「多重人格。」
「えぇ…。」

熊沢。
「まっ。症状には様々あります。いままで優しかった人間が、急に怒り出して、今までの性格とはガラリと違っていたり。また、その逆も…。けれども、いつの間にかまた元の状態に戻っていたり…。まっ。確かに、今までのその生活環境など、変えれば元に戻る場合もあり…ます…が…。汀さんも、聞いたことはあるでしょう。俗に言われる二重人格。」

幸乃、ポカンとしながらも熊沢に、
「あぁ。えぇ。二重人格なら、その人の性格が全く別人に…。」

熊沢、
「はい。」

LIBRA~リブラ~   vol,008.   柚香以外の他3名。

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Source: THMIS mama “お洒落の小部屋