季節は春。カレンダーでは4月になったばかり。
…あの時から、既に6か月…過ぎていた。
車は都内を走っている。目指すは羽田空港。
その羽田の国際線で、獏と葉子はある場所に向かう。その場所とは…。
アメリカ、シカゴである。
既に獏と葉子は結婚の約束をして秋には結婚式を挙げる事になっている。
けれども、その前に、どうしても、葉子に一目会いたいというリクエストがあったのだ。
そのリクエストを出したのが、かつて、獏のシカゴ時代に、
自分の汚名を返上してくれた男性、ローガン・フレデリック。ナンシーの兄である。
獏が葉子との結婚を決めてその後、獏はローガンに電話をしている。
その際、電話の向こうのローガンが電話口で驚き、そして興奮状態。
そして、可能ならば、一目でも、その女性に会ってみたい。との声が獏の耳に。
ただ…。葉子は…。確かに、喜んだり、笑ったり、涙も流すという事が出来るようにはなった。
けれども、出来るようにはなったが、必ずしも一般の人。
輪湖や秀美みたいにすぐさま感情表現ができる。…と、言う事にはならなかったのである。
いつも通りのポーカーフェイス。
全く知らない人から言わせれば、
まだまだ、「何、あの人…???…感情ないの…。全然表情、変わんないし。」
つまりは、常に感情表現で毎日を過ごす。…と、言う事にはなってはいなかった。
けれども。時には印象度の高い事には笑ったりすることは増えてきてはいた。
その事を獏はローガンに伝えて、感情表現が上手くできない事で、
ナンシーの両親に落胆する事のないように。と、予め、念を押してもいたのだった。
その事をローガンから聞いての両親は、それでも、ローガン同様に、一度は会ってみたい。
自分の娘の顔と瓜二つの女性がいるなら是非、会ってみたい。
と、言うリクエストで獏は葉子にその旨を伝え、
そして自らの声で葉子の両親にも話したのである。
稜平と由佳理は、その話を聞き入れ、すぐさま承諾。
稜平、珍しく家のガーデンでリクライニングチェアにゆったりと体を預けながら、
「…結局は…、蝶が、導いて…、くれたのかな~~。」
その隣で…。こちらも珍しく空を見ながら、リクライニングチェアに体を預けて、
「そうかもね~~。」
由佳理。
「あは。まっぶしい~~。」
4月になったばかりの日曜日。朝から気温は、上昇していた。
稜平、スマホの画像をみて、
「何度見ても、ほんと、葉子にそっくりだわ、この人。」
その声に由佳理、稜平の顔に顔を向けて、
「ん~~~???…ナンシーさん…???」
「あぁ。」
由佳理、麦藁帽を額に被せるように、
「まさかね~~。世の中に、葉子と顔が瓜二つの…、女性がいるなんて…。ほんと…。あの時の…、蝶なのかな~~。」
「かあさんのお腹の上に止まって、そしていきなり消えて。また現れて…。そして飛んで行った。」
稜平。
「まさか…。消えるなんて、思っても…。」
由佳理、顔を小さく、
「うんうんうん。」
稜平、空を見ながら、
「あと…。3時間…???…羽田、発つの…???」
由佳理、
「うん。10時半過ぎ…。」
「そっか~~~。」
思わず笑って稜平、
「…けど…。あいつ、葉子、大丈夫なのか…???生まれて一度も、旅行って…。」
そうなのである。感情表現が出来ないために…。ただ、周りはその事を、周知はしている。
葉子の子供の頃から…。それは学校でも…、ではあるのだが…。
但し、そのために葉子自身、大学を卒業するまで、まずもって、その行動範囲は限りなく狭い。
実際、扶桑で友だちとなる輪湖や虎一郎以外。
それ以前には、全くと言って良いほどに知り合いも親友もいない。
そのために…、学校で行われる修学旅行と言う行事には、葉子本人が嫌がっていたのである。
ただ、担任教師たちは…、薦め…たのではあるが…。
由佳理や稜平も葉子からは頑なに拒否され続けてはいた。
由佳理、そんな稜平に、
「な~~に言ってるかな~~。今や葉子、匡子さんの店や高村家にも行ってるじゃない。周りにはお客さんだっているんだよ~~。…それに…、今回は獏さんもいるから。大丈夫。…英語だって、あの子…。母親の私が言うのもなんだけど…、賢いからね~~。」
そこまで言って由佳理、
「…って言うか、肝心の獏さん。フィアンセがシカゴの人だもん、英語、全然問題ないでしょ。」
その声に稜平、
「かかかか。でしたね。はは。」
そして稜平、
「それにしても…。それにしてもだ。まさか、爽太より早く、葉子…、結婚…、とはね~~。」
由佳理、その言葉に、両手を思いっきり横に伸ばして、
「ん~~~~。待ち遠しい~~~。」
麦わら帽子が芝生の下にポロリと…。
「あは。」
こんな私です。〜選葉子(すぐりようこ)〜 vol,228. 車は都内を走っている。
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※ご本人の承認の下、紹介させて頂いております。
Source: THMIS mama “お洒落の小部屋