職場に数ヶ月前に入ってきたバイトさんがいる。
19歳の若いバイトさんである。
先日、1日私が張り付いて研修する日があり、ランチも共に取ることになった。
狭い休憩室で、最近は誰しもが携帯を見ていて誰かが出社しても顔も上げず、ハローさえない昨今、このバイトさんは話しながらご飯を食べる最近には珍しい若者バイトさんである。
話題が来週末の母の日になった際、たまたまいた別のバイトのSが「母の日ね…私ら姉弟を置いて駆け落ちしといて、母の日も無いわな…」と言い笑いながら売り場に戻って行った。
Sの母親は彼女が小6の時に浮気相手と駆け落ちした。
暫くして裁判を起こし「子供に会う権利」を主張。
子供に拒否権はなく、母親を恋しがっていた弟の為にSは母親の愛の巣で週ごとに暮らして来た。
そんな経緯があるから、そう言ったのである。
すると新しいバイトさんが「私も同じです」と言った。
彼女の場合は彼女が9歳の時に母親が浮気相手と出ていった。
母方の祖父母は浮気を知っていた事が分かり、彼女の父親が母方の祖父母と会うのも禁じた。
そうして17歳の時「戻ってきたい」と母親から連絡があり当然却下されたが、今はクリスマス前だけカフェで会ってやれるまでになったそう。
しかし許す事はないと思うと言った。
「クリスマスに孤独は一番辛い…と思うから」と言った。
私には来月で10歳になる息子がいる。
寝る前、息子が布団をちゃんとかけているか確認するついでに寝顔を見る。
手もまだ小さい。
こんな可愛い時に、どうして子供を置いていけるのかと思う。
駆け落ちした本人は「我が子を捨てたつもりはない」と言うだろうか…
家に帰ったら母親がいなくなっていた子供達からすれば「私達を捨てて男との暮らしを選んだ」
と思うのだろうか…
前に同様のケースが背景にある人の結婚式に行ったが、子らの慈悲の気持ちだったのか、幼い時分に男と駆け落ちした母親が結婚式に出席していた。
参列者から送られる冷ややかな目、それはそれは耐え難き冷酷さであった。
うつむいたままの母親は常に一人で、一番後ろのテーブルに一人で座っていた。
写真にも入らせては貰えず、本人も望めるはずもなく、あれが駆け落ちの成れの果てかと怖さを感じた場面であった。
一緒に行っていた亡き義母に「見ていて辛すぎる」と私が言ったら、白いジャケットを肩に羽織った義母がタバコの煙をゆっくり肺に入れてから、再びゆっくり吐き出しながら「浅はかな女よ…」と言いコーヒーを飲んだ。
その日一番ゾッとした瞬間である。
今思い出しても背筋が寒い。
Source: イギリス毒舌日記