瞬間、尚子、直立不動で、「了解です。」

蔵井氏、そんな輪湖と尚子を見て…。
「ま、ま～～。これは…。ただ…、周知する…べきことでは…。…けれども…。」
そして蔵井氏、尚子を見て、
「戸倉さん。尚子さん。」

その声に尚子、いきなりシャキッと、体を真っすぐに。
「はいっ!!!」

「特に。」
そして蔵井氏、
「まぁ～。ヨウちゃんと、輪湖もいるから…、安心でしょう～～。尚子さん。しっかりと…。」
蔵井氏、自分の口の右口角から左へと、左手握り拳でピシッと、
「お願いします。」

瞬間、尚子、直立不動で、
「了解です。」

すぐさま輪湖と秀美、
「ぷっ。」

葉子はひとつ、顔を傾げて…。

紫、
「実は～～。その季節毎に～～。横浜トランキルマンヘブンズホテル。家族で宿泊させてくれている。」

瞬間、葉子、
「…ん…???…宿泊…、させてくれている…???」

秀美、
「…と、言う事は～～。」

葉子、
「もしか…して…。料金…、ただ…。」

紫、首をコクリと。
「ただ。」

輪湖と尚子、いきなり、
「え゛――――――っ!!!」

蔵井氏、
「まっ。これは…、でも…。営業の…。」

「その通り、営業の都沢君も、ただ。料金は無料。」
いきなり陣屋。

４人、
「部長～～。」

陣屋、腕組みしながら、仕方なさそうな顔で、
「まっ。今更、何を隠しても…。えぇ。紫は現在、横浜トランキルマンヘブンズホテルの財務のコンサルタント、任されている。そして営業の都沢君も同様。営業コンサル。但し、そのコンサルタント料はホテル側からは一銭もなし。これは天春社長の意向でもある。」
そして、
「…けれども、横浜トランキルマンヘブンズホテル社長の鶴来さんから、そこはなんとか…。…との申し出で、向うから季節毎に、しかも、ご家族の何かしらの記念日や様々な事で、ホテルを利用してください。そういう…、お願い…、と言う事なのかな…。毎回の宿泊を無料で…。しかも…、とても素敵なお・へ・や。」

いきなり輪湖、
「え゛～ぇ～～～え～～っ!!!…なんとも、VIP。」

尚子、
「確か…。主任の家族って…。」
両目で右左…。
「…と、なると…。」

紫、
「家族４人。…でも、子供も含まれるから…。多分、８万くらい…、に、なって…。」

輪湖、口をへの字にして、
「い゛～～～。一泊、８万円が…、ただ…。」

「お蔭様で…。」
紫、笑顔で頷く。

秀美と葉子、
「わ～～お。」

そして、紫、腕組みして、
「今、部長ともこのゲラ見て、課長とも一緒に話し、してたんだけど…。」
陣屋と蔵井氏を見て紫、
「今頃、このゲラでここ、大変な騒ぎになってると思う。」

その紫の声の通りに。それぞれの部長室、並びに取締役室。
そして社長室でも…。天春廿楽(あまかすつづら)。百貨店扶桑の代表取締役社長である。
そんな天春の机の上にも同じゲラが…。

天春、そのゲラを見た途端に椅子から立ち上がり、窓から遠くを見るように、
「降って沸いたような話ね～～。それにしても、人権侵害なんだけど…。警察でもあるまいし、他人の個人情報が、なんで…???…あそこが、トランキルマンヘブンズホテルの社長の物って信じ込んでいるんじゃないかしら…。例え経営権が鶴来であろうと…、人の建物と敷地内で好き勝手にされてもらっては困る。美海(みなみ)、この件、頼める…???一切を、任せるけど…。」

美海と言われた女性。社長秘書である。名前を東風美海(こちみなみ)と言う。
天春がここ、扶桑に登場した時点で天春の側近として、右腕的存在の人物でもある。

美海、そんな天春の声に丁寧に一礼をして、
「畏まりました。」

営業推進部、鳩崎、部長室で、
「やれやれ。ここまでも嗅ぎつかれているとは…。奴さんたち、旨い餌でも見つけたようだが…。…それにしても…。」

鳩崎の目の前で海江田、
「えぇ…、嗅ぎつかれてるようで…。…でも、誰が…???…但し、ホテルキャッスルチャイナ。中国ではトップクラスの高級ホテル。本拠地は確か…、北京。」

その声に鳩崎、
「あぁ。大物だ。資産、５兆円。下手すりゃ、一気に扶桑なんぞ、飲み込まれる。」
そして鳩崎、椅子から立ち上がり、窓に向かって、
「どうやら…、リークした人物…、いるの…かも…、知れんねぇ～～。」

海江田、
「誰か…、心当たりでも…。」

間髪入れずに鳩崎、
「いや…。全然。全く、見当も付かん。知る由なし。…ただ…。今じゃ、ネットで検索しても、常にトップ表示。しかも、既にミシュランでも４つ星。若い者からは愛され、逆に５つ星の関東圏のホテルよりも嬉しいコメントがどっさり。どこぞのお偉いさまが、狙ってるってか～～。さて。廿楽(つづら)社長、どう出る…か…。」
そして鳩崎、海江田に振り向いて、右手で、左肩に左手の平を、そして、
「ポン。」

海江田、
「部長、それは…、鼓(つづみ)。」