ナースステーションで、柚香の部屋のナースコールが…。
看護師の石垣、
「汀…さん…???…柚香さん。」
丁度その場にいた医師の熊沢も、
「行ってみましょう。」
ドアをノックして、
「どうしました…???」
幸乃、ドアに振り向いて、
「先生…。」
その瞬間、また陽織は布団を頭まで被って…。
熊沢、幸乃を見て、そして看護師の石垣を見て…。
石垣、顔を傾げて幸乃に、
「汀さん…。おばあちゃん。どうしました…???」
幸乃、医師を見て看護師を見て、そして布団を被っているままの…。見て…。
「それが…。」
熊沢、石垣を見て、
「…???」
石垣も、
「…???」
熊沢、布団に向かって、
「汀さん。柚香さん。どうしちゃったかな…???」
石垣も、
「柚香さん、どうしたのかな…???」
返事がない。
熊沢、
「汀さん…???」
幸乃に。
幸乃、困ったような表情で…。
「いきなりこの子。…私は柚香じゃない。陽織だ。…って…。…おかあさんとおとうさんはどこ…???…って…。」
その声に思わず熊沢、
「はっ…???」
石垣も、ビックリして、
「えっ…???」
熊沢、いきなり目をパチクリと…。そして、顔を傾げて、幸乃に、
「あ、あのぉ〜〜〜。申し訳ありませんが…。仰っている事が…なんとも…。」
石垣、熊沢に、
「先生…。」
看護師の声に熊沢、
「あ、あ〜〜。」
そして、
「汀さん…。あの…、別室で…。」
幸乃、
「え、え〜〜。」
そして幸乃、一旦は椅子から立ち上がる…が…。
「あっ。…でも、先生…。…私…。いえ…。柚香と私は…。実は…、その…。たったふたりの…、家族なんです。」
その声に布団の中の陽織、小さな声で、
「たったふたりの…家族…???」
「こう言っちゃあ…なんですけど…。ふたりだけの家族で…、そんな…、隠し事…。」
幸乃、ベッドの布団を見て…。
「それに…、この子も…、もぅ…19。大学2年。」
また陽織、布団の中、頭の中で…、
「…私…。今、大学…2年生。」
幸乃、続ける。
「もぅ…、この子だって…。医者の話している事…。」
幸乃の話に熊沢、ニッコリと。
「汀さん。仰る事は重々。…けれども、我々医療に従事する者。どんな病状の患者に対しても、病院にいる限りは、その安全を保証する責任があります。どんな状況に於いても、その安全を保証するためにも、患者の現在の容体、そして心理までも鑑みて行動を取っていかないと…。そのために…、仮に、事実であっても、患者にとっては、その事が身体に、何かしらの影響をもたらしては…。…それが…、原則となります。…患者の身体を思ってこその、我々、医療従事者です。…ご理解、頂ければ…。」
熊沢の話に幸乃、一旦躊躇はするが…。顔をペコリと。そして、
「分かりました。」
ベッドを見て、
「柚香、ちょっと、おばあちゃん、先生と、出て来るからね。」
そう言って熊沢に、
「お願いします。」
熊沢、笑顔で、
「どうぞ。」
布団の中で陽織、頭の中で、
「…なんで…???…私も聞きたい。知りたいのに…。」
別室にて熊沢、幸乃に椅子に座るように勧めて、
「どうぞ。」
幸乃、ペコリと、
「失礼します。」
熊沢、
「…では、お話を…。」
幸乃、思い出すように、
「実は……。」
瞬間、熊沢、幸乃の声に、
「えっ…???…二卵性双生児…。」
幸乃、顔をコクリと、
「え〜〜〜。柚香が、姉で、陽織と言う、娘が…、妹で…。」
「そうでしたか〜〜〜。」
「けれども…。」
幸乃、
「ある交通事故で…。…ですけど…。奇跡的に柚香は…。」
汀柚香、父は汀裕司(みぎわゆうじ)、そして母に汀萌衣(みぎわもえ)。
そして妹には汀陽織(みぎわひおり)。この姉妹は二卵性双生児である。
柚香と陽織、年齢2歳。父の海外出張からの帰りに、久しぶりに家族で旅行に行くことになった。
少し遠出と言う事で観光したり、水族館を見たりと言う計画だった。
時期はゴールデンウィークたけなわ。
どこもかしこも何とか工夫を凝らしてのナビ案内で何とか渋滞を避けながら…、
ではあったのだが…。
ある場所での…、何とも不運の事故。
信号待ちの数メートル車の列。
柚香たちを乗せた父の運転する車の目の前には大型貨物車が止まっていた。
突然の事故だったのである。
いきなり後ろから…。ダンプカーであろう、そのまま柚香たちの乗った白い乗用車に追突。
乗用車は停車しており、サイドブレーキも掛けられてはいたが、
それでも、その後ろからの追突で車は大破。
乗っている運転手含め、その他、全員死亡…。
…と、思われたのだが…。…奇跡的に、助手席のシートから救い出された女の子1名だけが、
何とか病院に搬送された後も微妙ではあったが、心拍ありで、懸命な医師たちの努力の結果、
命を取り留めたのだった。
その子が、汀柚香である。
LIBRA~リブラ~ vol,007. 「汀さん。柚香さん。どうしちゃったかな…???」
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※ご本人の承認の下、紹介させて頂いております。
Source: THMIS mama “お洒落の小部屋