ドキドキ スマホのスピーカーから聞こえてくる匡子の声。
匡子の声を聞きながら由佳理、鼻の下にハンカチを…。
涙が出て止まらない。そしてまた目にハンカチを…。

由佳理、今度は顔を前に、
「あ、ああああああ。葉子~~~。」

由佳理の前で稜平、ガッシリと腕組みをして、唇を搾り、目は真っ赤のまま。
いきなり鼻をシュンと…。

椅子から立ち上がり母の背中をさする爽太。
「かあさん。」

匡子の声は続く。

由佳理、目は瞑ったままで、今度は顔を上げて、
「あ~~ああああ。葉子~~~。」

スマホから、
「稜平さん…。続けるね。」

稜平、スマホに、
「お願いします。」

爽太も、
「姉ちゃん。」

それから、凡そ15分。スマホの匡子の声。
「…と、言う事で、ヨウちゃん、多分、もうすぐ家に帰る…頃…、かな…???」

由佳理、何度も顔を頷かせて、
「うんうん。うんうんうんうん。ありがと。匡子さん。」

稜平もスマホにお辞儀をするかのように、
「ありがとうございます。」

匡子の声、
「ううん…。私なんて、何もしてないよ。」
匡子、既にスマホのその動画をパソコンに移していた。
そしてパソコンでその動画を見ながらベッドの中で…。
「でもさ…。…これも…、なんて言うかな…。…ある種の出会い…???」

その、「出会い。」と言う言葉に由佳理、また顔を数回頷かせて、
「うんうんうん。」

稜平はゆっくりと頷いて…。

「まっ。確かに。由佳理さんと稜平さん、まだ、獏の事は…。かかかか。顔も…、見た事はないけどね…。」

由佳理、声が引き攣るように、
「うん…。」
ハンカチで鼻を押えて。

「でもさ…。」
匡子、
「由佳理さん。稜平さん。」

籠った声のままの由佳理、
「うん。」

稜平、
「はい。」

動画を見ながら匡子、
「蝶に、導かれて、いるのかな~~。」

由佳理、
「うんうん。」

稜平、
「蝶…かぁ~~~。あの時の…。」

爽太、
「姉ちゃん…、生まれる前の…、かあさんの…、お腹の上の…、蝶…???」

そんな爽太の顔に、由佳理、目を真っ赤にさせたままで、
「うん。」

爽太、
「その話、何度も聞いた。」

由佳理、
「うん。何度も話した。」

稜平、納得したような顔で、
「あるもんだね~~。こんな事が~~。30年。全く、笑った事がない。涙すら流した事がない。楽しいと感じる事もない。当然ながら、怒った事すらない。そんな葉子が…。しかも…、顔は完璧なるハーフ。」

匡子の声、
「うんうんうん。」

「そんな…。感情が表に全く出ない女の子が…。将来、これから先、一体、どうなるのか…。心配で、心配で…。悩みましたよ。」

「ふたりで…。眠れないときも、何度もあったよね。」
まだ声が籠ったままの由佳理。

稜平、
「あぁ。」

匡子、
「稜平さん。由佳理さん。うんうんうん。」

「でも…。…それでも…。…ふたりで…。…とにかく、受け入れるしかない。受け入れるしかない。…そぅ…、気持ちを切り替えて…。医者が言う通り。しかも、確信を持って。そして、その自信に、僕たち、救われて。断言します。顔はどうあれ、目の色がどうあれ、選さんの娘である事は明確。あなた方ふたりが、自信持たないでどうするんですかっ!!!…そして…。あの時、僕たちに、言ってくれたんですよね~~。私が、この子を、一生、応援します。任せてくださいって…。諸橋(もろはし)先生…。」

由佳理、また目から涙が…。
「うんうんうん。」

スマホから匡子の声、
「そうだったんだ~~。」

稜平、
「けど…。5年前に…、亡くなりましたけどね~~。」

由佳理、
「良くしてくれたよね、諸橋先生。爽太の時も、そうだよね~~。」

爽太も、顔をコクリと、
「うん。」

匡子の声。
「…そんな訳で…。」

由佳理と稜平、
「うん。」
「はい。」

「多分…。近いうちに…。ヨウちゃんから、何か、話しがある。…と、思う。」

またふたりで、
「うん。」
「はい。」

「その時が来たら…。」

由佳理、
「あは。」

稜平、
「もちろん。」

匡子、
「お願い。します。」

「ヨシっと。…と。こんな感じかな~~。ふぅ~~~。」

ドアをノックする音。そして、ガチャリと、
「用意、出来た…???」
由佳理である。

葉子、
「あん。ふん。大丈夫。」

その声に由佳理、ニッコリと、
「うん。」
そして、腕時計を見て、
「時間は…???…大丈夫だよね。」

「うん。多分。」

玄関から声。
「ごめんくださ~~い。おはようございま~~す。海江田で~~す。」

由佳理、ニッコリと、
「あは。来た来た。」

葉子もニッコリと、
「はは。」

レンタルした車のトランクには獏と葉子のキャリーケース。

稜平、海江田の手を握り、
「海江田さん。獏さん。葉子の事、お願いします。」

由佳理も海江田に深く頭を下げて、
「よろしくお願いします。」

爽太、海江田に敬礼するように、
「よろしく~~。」

獏、笑顔で、
「はい。分かりました。」

葉子、そんな獏の隣でニッコリと、
「行ってきま~~す。」

こんな私です。〜選葉子(すぐりようこ)〜   vol,227.   スマホのスピーカーから聞こえてくる匡子の声。

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Source: THMIS mama “お洒落の小部屋