そして葉子、蝶に導かれるままに、その人物の周りを一周して…。
けれども、またその場から離れる。そしてまたドアをすり抜けて。
すると葉子、いきなり怒ったような声で、
「一体、何処に連れてくつもりよ。…ったく~~。」
すると今度は…、天井をすり抜けて…。
いきなり葉子、
「ワハ。便利な体~~。」
笑いながら…。
蝶が向かう先。常務室である。
「常務…。伊丹(いたみ)…常務…。」
誰かは分からないが、朝早くからのある人物との会談中。
伊丹要(いたみかなめ)、女性である。一時期、専務に抜擢されたのだが、
元会長の天春宗謙から、「一時、専務の座を譲ってくれ。」と言う、噂が走った。
それほどまでに優秀な逸材でもある。そして、社長の廿楽を、陰日向になり、支えてもいる。
そんな伊丹の周りを蝶と葉子は、また一回りして、部屋を抜け出し。
葉子、
「もぅ~~。今度は何処~~???」
顔は正に、困ったような顔で…。ゆらりゆらりと廊下を…。
…そして、ある部屋の前。
「専務室。」
葉子。
「…と、言う事は…。…小田島専務。」
部屋の中に入り…。ただひとりだけの…小田島。机の上には、3台のパソコン。
1台の画面にはデータ分析のような…。そして1台は、様々な表がズラリと…。
そして、最後の1台には、テキストと暗号のようなものが…。
座っている椅子を小刻みに移動させて…。
宙に浮いたままの葉子、その3台のパソコンの画面をじっくりと見て…。
小田島が画面をスクロールしているあるページ。葉子、
「へっ…???」
目を真ん丸に。そして…、
「うそ。」
いきなり目の前の蝶が羽から金粉を…。そしてまた動き始める。
葉子、キョトンとしながら、
「…と、言う事は…。」
蝶は金粉を舞い散らせながらもその部屋を出て行く。
必然的に葉子を引き連れて…。
そして、次に訪れる場所が…。
葉子、
「うそ。社長室…。」
既に陣屋が廿楽と立ちっぱなしで話を…。
葉子、そんな陣屋と廿楽に、
「部長っ。社長っ。」
声は掛けるがふたり、全く声が聞こえていない。
「あ~~ん、もぅ。…多分、この体、見えないんだわ。声も届かない。」
すると今度は…、今までゆらりと舞いながら飛んでいた蝶が、速度を変えて…。
葉子も、それと同様に、速度を変えて飛ぶように。
「何…???…今度は何処…???」
蝶が向かった…、その先は…。
葉子、
「営業推進部…。…なんで…???」
ゆらりゆらりと舞いながら、ある机に…。
そして、ひとりの男性に…。蝶は、その男性を優しく抱くように揺れながら舞う。
その蝶を見て葉子、
「海江田課長…。」
その時、いきなり涙が出てきて…。
海江田を離れる蝶。
そして…今度は、葉子が、海江田の体、背中に周り、海江田を優しく抱き抱える。
「BAKU…。」
目を閉じる葉子。そして、口から洩れる言葉、
「I’m Nancy.」
その瞬間、またスゥ~~~っと、体が天に吸い込まれるように…。
海江田、次の瞬間、いきなり力が抜けたように…。そして…、朧げに…。
「へっ…???…今…、ナンシー…???」
葉子…、気付くと、自分の席。目の前にはパソコンの画面。そして周囲は忙しい財務企画。
いきなり葉子、
「えっ!!!」
そして…、目をパチクリと…。
輪湖、向かい席から、
「どしたの…、葉子…???」
その声にまた葉子、目をパチクリ。
すると今度は隣の秀美、
「葉子先輩、今、資料、メールしました~~。」
その声に葉子、
「あっ。はい。はいはい。うん。分かった、ありがと。」
葉子、両眉の先端を吊り上げて、
「なんだったの…、今の…???」
けれども、ボソリと、
「小田島専務…???」
そして、いきなり、立ち上がりながら葉子、
「そう。小田島専務っ!!!」
その声にいきなり蔵井氏、目を真ん丸に、
「えっ!!!おぃっ!!!ヨウちゃんっ!!!」
一斉に他の社員たちも葉子に集中。
「何…???…どうした…???」
紫、
「葉子…。」
輪湖も尚子も、
「葉子…。」
秀美も、
「葉子先輩。」
葉子、
「分かった。分かったの。横領の犯人。」
今までとはまるで性格が変わったようにいきり立つ葉子。
そんな葉子に蔵井氏、
「ヨウちゃん。ヨウちゃん。」
立ったままの葉子。いきなり自分がいきり立ったのを初めて感じて、
「あっ。」
蔵井氏、
「選葉子~~。」
その声にようやく気付く葉子。
「あっ、あ~~~。…はい。」
輪湖と秀美もビックリ。
そして社員たちも、
「葉子…。」
輪湖、
「葉子…。あなた…、大丈夫…???…まるで…、別人…。」
秀美も、困ったような顔で…、
「葉子…先輩。」
そんなふたりに葉子、
「あ、あ~~、ははは。ゴメン。」
葉子、顔を僅かに歪めての表情。その顔にも、輪湖、そして秀美、
「えっ…???」
それから30分程…。財務企画のドアを開けて陣屋。
蔵井氏の机に近づき、そのまま右手指でピアノの鍵盤を指で叩くように、トトトン。
そのまま部長室に向かって。蔵井氏、すぐさま椅子から立ち上がる。
そして蔵井氏、陣屋の後ろに。ふたり、部長室に…。
こんな私です。〜選葉子(すぐりようこ)〜 vol,203. そして葉子、蝶に導かれるままに…。
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庄司紗千 「雫音〜shizukune〜」
※ご本人の承認の下、紹介させて戴いております。