獏、そんな匡子に、
「かかかかか。やられたね~~。」
そして…。
「確かに。いました~~。」
匡子、
「おっと~~~。」
「ふ~~~ん。まっ。そっ。確かに。いました~~。」
匡子、その声に、腕組みして、
「うんうんうん。偉い。はははは。…で…???その人とは、その後…???」
獏、
「いました~~が~~。今は、いない。ふふん。」
瞬間、匡子、
「へっ…???」
目をパチクリと…。そして、口を尖らせて…。
その頃、バー・ニクラスで、ひとりで飲んでいる鳩崎。
「ふ~~~ん。海江田君に、悪い事、訊いちまったなぁ~~。」
匡子、獏のその声に、
「へっ…???今は、いないって…???…まさか…、獏ちゃん、女に振られた…???」
瞬間、獏、
「かかかか、ま~~さか~~。…って言うか…。俺って…、そんなにモテませんって…。」
匡子、いきなり口を尖らせて、
「いやいやいや。獏ちゃん、そのマスクで…。冗談でしょう~~。ねぇ、サブちゃん。」
佐武郎、匡子の声に、困ったような顔で…。
「まっ。…でも…。ふん…。獏ちゃん…???」
そんな匡子に獏、
「…ふん。聞きたい…???」
匡子、今度は顎をクィっと。
「…まぁ…ね。」
獏、口を真一文字に、そしてビールの入ったグラスを持って、
「…今は、いない…。…って言うか~~。もぅ…、いない。」
「えっ…???」
耳に入ってきた、その、「もぅ…、いない。」のその声に佐武郎も、
「???」
匡子を見て…。
匡子、
「…もぅ…、いないって…。獏…。」
獏、今度は、そのグラスを凝視して、
「うん。そっ。もぅ…いない。この世に…、いないんだ。」
瞬間、匡子、フリーズ。
数秒の沈黙…。
…そして…、
「ば…く…。」
「事故でね…。」
匡子の顔が…、
「えへ…???」
…3年前…。アメリカ、イリノイ州、シカゴ。午後4時。
フレンチマーケットから買い物をして通りを歩いていた女性、
通りを歩いて信号機に辿り着いたその時、後ろからけたたましい音。
振り返ったその瞬間。一瞬の出来事だった。
一気にその場は騒然。
数分後…。現場は警察車両も緊急車両も通れないほどの大惨事。
やがて、ストレッチャーと担架があちこちに。数人の医師たちが手にトリアージを持って…。
そして、被害者たちは緊急に最寄りの病院に搬送。一般車両10数台を巻き込んだ事故。
しかも、歩道を歩いていた市民たちも、かなりの人数が巻き添えに。
原因はたったふたりの度胸試し。ドラッグを常用していた上に、一般道でのカーレース。
しかも、その速度は、優に100キロを超えていたと言われてる。
信号無視の交差点を曲がっての、
目の前の渋滞の一般車両を避け切れずに2台の車が次々に一般車両に衝突。
追突された車両は次々に弾き飛ばされ歩道や店舗などに…。
それぞれの車両は横転したり大破したり。
そして、車の中で動けなくなり気絶している者、
歩道では体のあちらこちらから出血し、助けを待っている者。
大人もいれば老人や子供も…。
その中に…。買い物を終えての歩道を歩いていた女性。
いきなり歩道に突っ込んで来た車に弾き飛ばされ建物の壁に叩きつけられそのまま…。
運良く、事故現場の最後方、反対方向からの緊急車両、担架からストレッチャーに…。
そして救急車に…。その時点ではまだ心臓は…、そして、呼吸も…。
けれども…。
病院に着いての数分後…、医師による蘇生術が…。
そして…、30分後…。
駆け付けた家族の怒濤の悲しみ。
そして、その家族から連絡を受けて病院に駆け付けた漠、
既にベッドの上で生気のない顔。その女性の名は「ナンシー・フレデリック」
漠の婚約者である。
当時の話しをして漠、匡子に、
「…と、まぁ…、そんな訳で…。」
匡子、口を噤んだまま、数秒…。
そして、わずかに顔を頷かせて、
「そぅ~~。そういう事、あったんだ~~~~。」
漠、
「そっ。そういう事が、ありました~~。」
匡子、何気に左武郎を見て、わずかに微笑んで…。
左武郎、わずかに顔を傾げて…。
漠、
「…まっ、でも…。匡姉ぇは…。…こういう話…。」
そんな漠に匡子、
「うん…???…うん。…まぁ……ねぇ~~。」
匡子、顔を傾げて…。
瞬間、漠、左武郎を見て…、
「あっ、余…計…な、事…。」
その声に左武郎、思わず、目をパチクリと…。
匡子、左武郎に、
「あっ、ごめんね、サブちゃん。いきなりこんな話になって…。」
そんな匡子に小刻みに顔を振る左武郎。
匡子、
「実はね、サブちゃん。」
こんな私です。~選葉子(すぐりようこ)~ vol,028. そして…。「確かに。いました〜〜。」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
《PR》
庄司紗千「3センチの中央線」
※ご本人の承認の下、紹介させて頂いております。