その声に将輝も馨も、
「へっ…???」
顔を見合わせて…。
「そんな…つもりじゃ、ないんだけど…。」
ほぼ2人同時に。
杏美、思わず手を叩いて、
「かかかか。な~んで、ふたりでおんなじ事言ってるかな~~きゃっはははは。」
その数時間前に武蔵野市検察庁、刑事部の蒼介のスマホに一本の電話。
「はい、瑞樹です。ご苦労様です。」
電話の相手は久我である。
話を聞いて蒼介、
「そうですか~~。」
理沙の事故の件である。
吉武に示談の話。
その事を聞かされた優也、いきなり机に上半身をパタリと。
「ありがとうございます。」
そして今度は体を崩しながらも椅子を後ろに、そしてそのまま体を崩しながら床に。
膝を折って土下座を。
「ありがとうございました。ありがとうございました。」
妻の美波は…、それでも顔を左右に揺らしながら…。
目の前で久我、優也に、
「瑞樹さんの娘さん。理沙さんと言う。今、車椅子での生活だ。前にも話したように、事故に遭って、手術をして、そして成功した。けれども、何かの切っ掛けで脊髄損傷。神経がズタズタになり、今度は下半身不随。治る見込みは、現段階では…。けれども娘さん、車椅子生活ではあるが、周りからの応援もあって、自分で次の目標、見つけて、今は、それに専念している。奥さんの事、そしてあんたら夫婦の子供の事を知って、結論を出したそうだ。」
優也、その話を聞いて、顔を上げて、目からは涙。
「なんて言えばいいか。本当にありがとうございます。」
「これで、奥さん、治療に専念できるな。瑞樹さんの娘さんも、一番は、それを望んでいる。子供が可哀想だと。」
そして久我、
「これを切っ掛けに、奥さん、治療、専念して…。治らない病気じゃないらしいじゃないかぁ。医者の話によると、本人の気持ちが一番との事。」
優也、
「すみません。その…、娘さんに、会う事は…???」
その声に久我、静かに首を振り、
「それはできない。…と言うより、やめた方がいい。加害者が被害者に…、と言うのは、それこそ酷だろう。娘さんの事を思うのであれば尚更。」
優也は何度も何度も頭を下げて。そして机の端に右手を、
そして体を起こして妻の美波を見る。
自分を見つめられた事が分かったのだろう、美波はそんな夫の顔を見て、微笑む。
それから数日が経過。
いつの間にか、瑞樹家の夕方は、理沙の部屋、
そしてリビングを使用しての大人数での将輝と馨への家庭教師となっていた。
総勢10人。
何と部活を終了した名城高校の女子バレー部、雅美に芙美、そして麻都香までも参加。
しかも、それに加えての栞奈も…。実に麻都香の参加で大盛り上がり。
実は、この麻都香、成績は学年トップ。自身、一流大学を目指している。
しかも、麻都香の父親の家系は政治家であり、父親は東京都議会議員秘書である。
そんな麻都香のスパルタ家庭教師振りに、将輝も馨も、
とにかく必死に食らいついていくしかなかった。
間違った回答には麻都香からの教科書での頭への、「バチン」が出る。
そして、
「何やってんのぉ~~~。」
その度に将輝も馨も、
「痛って~~っ!!!」
けれども立場上逆らえるはずもなく…。
その勢いに他のメンバーも、体を寄せ合いながら、
「こ~~わ~~。」
理沙の部屋ではその声が聞こえて、杏美、
「麻都香って、あぁいうとこ、あったっけ…???」
芙美、顔を傾げて、
「い…や~~。私も…ちょっと…、あれ…???的…な…。」
麻理絵、
「はいはい、将輝君、次~~。」
馨の勉強を見ながらの理沙は、
「さすがだね~~、麻都香~~。」
「これくらいはね~~。やっちゃわないと。私だって、小学の時、凄かったよ、父さんの決めた家庭教師で、散々怒鳴られたかんね~~。」
「さすがは、東京都議会議員秘書の娘。やること半端ないよね~~。」
そして栞奈も、
「うんうんうん。なかなかどうして。気合入る~~。…てか、私はそこまで無理~~。良し、将輝君、見て来よ。」
杏美、
「はい。残り30分ねぇ~~。おばちゃん帰ってきたら、いつも通り、帰るよ~~。」
その声に将輝、
「は~~い。」
「おほ、や~ってるね~~。」
その声にリビングのメンバーはビックリ。その声の方に振り向く。
理沙、
「おとうさ~~ん。」
信じて…良かった。 vol.140. 数時間前に蒼介のスマホに一本の電話。
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庄司紗千 花笠音頭
※ご本人の承認の下、紹介させて戴いております。