ふたり、居酒屋から出て。
「ここって、本当に、居酒屋…???」
千尋。
「なんでもありますよね。」
翔。
既に辺りは暗く。
「じゃ、帰ろうっか…。」
千尋。
翔、
「ごちそうさまでした~~。」
笑顔でニッコリと千尋、
「いいえ~~。翔君と話し出来て、良かった~~。」
「こちらこそ。」
そして翔、一歩左足を前に。
その時、グラリと体が…、
「お~~~~っと~~。」
いきなり膝がカックンと。
倒れる瞬間に大勢を取り戻した翔に千尋、
「かかかか。大~丈夫~~???」
その声に翔、恥ずかしそうに、そして照れながら、
「はい。大丈夫です。」
そして2回ほど、ピョンピョンと跳ねながら。
千尋、
「はははは。うんうん。OKね~~。」
翔、
「はい。はははは。ありがとうございます。」
「うん。」
そして翌日、優里亜は病院を退院。
病院を出る前に木綿子にまたお見舞い。
そして3日間不在の自分のアパート。
「ただいま。」
とにかく窓を開けて新しい空気を…。そして…、
「翔…、主任…。どうだったんだろ…。」
自然に頭に蘇る、暑さで頭がボ~~っとなり、倒れてしまった時の事…。
「あれから…私…、翔から…。」
その2日後、翡翠堂の販売コーナー。
クック・ル・ポットとの新作の商品が並ぶ。
そしてその商品が、ここ、徳康の病室にも…。
もはや衰弱は免れず、今日明日と言う医師の判断。
徳康の傍で季実子、
「お父さん。お店の新しい商品、出来ましたよ。」
その傍で徳美、
「爺ちゃん…。」
反対側で傑、
「蓬田さん、いいのが…出来ましたね~~。うんうん。蓬田さんも、凄いですよ。まだまだ~~。」
壁際には肇に光流、そして、店員の峰子。
葉月、奈都美に伸永。徳康を見守りながら…。
決して苦しい、辛いという表情は見せずに徳康、医師に虚ろな目で…。
傑、
「分かりました。」
そしてマスクを外して。そして今度は少し上体を上げながら…。
季実子、
「お父さん。」
徳康、弱々しい声で、
「季実子さん…。」
左手を出して…。
季実子、
「はい。」
そして徳康の左手を両手で握って。
そして徳康、次に徳美を…。
同じく、今度は徳美の手を握って。
「爺ちゃん。」
そして今度は、医師の顔を見て…。
すると、壁際を見て右手を。
傑が伸永たちを…。
伸永、奈都美、葉月、顔を見合わせて。
肇、3人に手を差し出し…。
伸永からベッド際に。そして、ベッド際に近づいた伸永に右手を…。
伸永、その右手を握り、
「えっ…???」
力の限りに伸永の右手を握る徳康。
衰弱しきった顔、そしてその目から涙を…。
いきなり鳴き声の峰子。そして光流。光流は峰子を抱きしめて。
伸永の右手を握り終えて、今度は、奈都美を見て徳康。
そのまま奈都美に右手を…。奈都美も…その右手を握り…。
徳康、小さな声で、
「…ありがと…。」
その瞬間に奈都美、目を真っ赤にして零れる涙。
「ありがとう…ございます。」
そして手を離してすぐに両頬を両手で拭って、葉月の後ろに。
葉月も徳康の右手を握り、涙目で、鼻を真っ赤にさせて…、泣き声で、
「蓬田さん…。…うん。」
そして徳康、今度は左手で季実子の右手を引っ張り、
目を閉じて自分の顔に引き付ける。
季実子、
「うんうん。何…???」
「峰…ちゃん。」
季実子、その場で、峰子に、
「峰ちゃん。」
峰子、真っ赤な顔のままで、
「はい。」
徳康の傍に…。
すると、いきなり峰子の体を引き寄せ。自分の顔に峰子の顔を。
峰子、
「おじぃちゃん。」
徳康、声にならない声で、そして、目を閉じて、
「…ありがと…。」
そして…。峰子の首に回した左腕が、ダラリと…。
峰子、
「へっ…???」
季実子、峰子の体を抱いて…。
峰子、
「おじぃちゃん…、おじぃちゃん。おじぃちゃん。」
叫ぶような声で、
「おじぃちゃ―――――――ん。」
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庄司紗千 海をこえて
※ご本人の承認の下、紹介させて戴いております。
Source: THMIS mama “お洒落の小部屋