夫が義母に最期の面会に行く際、医師から「面会に来た方は同居人共々、病院を訪れた後に自宅隔離を10日する事を約束してもらわねば許可できませんので、それを約束して下さい」と言われた。
夫は医師から自分の母親が今日明日に逝くと告げられた後、すぐに上司に連絡。
10日間仕事に行けない事を告げ、もし迷惑なら面会は諦めると告げた。
しかしながら幸運にも上司からは許可が出た。
上司も1度目のロックダウン時に自分の父親をコロナで亡くしており、その悔しさが分かるだけに「悔いの無いよう会っておいで」と言ってくれた。

10日間、私も買い物に行けないので冷凍庫の中の物と買い置きで工面し、牛乳だけは近所に住む友人に頼み、3リットルほどお願いして玄関に届けてもらった。
義母が今日明日かも知れないと聞き、すぐに買い物に行く事も出来たが、とてもそんな気にはなれなかった。

義母を看取ってくれた看護師さんから電話があった際、夫は看護師さんに最後はどうだったかを聞いた。
「最後は安らかでしたよ」と答えてくれた。
「最後の最後に入る前、最善を尽くすために私達は大きな呼吸器に付け替えようとしましたが、お母さんは手を少し挙げ『もう要らない』というような素振りを見せました。多分、もう呼吸器を着けたくなかったんじゃないかと思います。頑張られました」と言ってくれた。

電話を切る際、看護師さんは「死亡診断書が出来次第、お母さんの荷物と一緒に取りに来てもらう連絡をこちらからしますので、それまでお待ちください。それと、看取れなかった悔しさは、遺族にとっては死を消化しにくいものです。何度でもお母さんの最後がどうだったのかを聞いて下さい。迷惑では決してありませんから、何度でも私に電話を下さって構いません。何度も何度も聞いて、お母さんが安らかに逝けた事を飲み込む事で、時に遺族は悔いなく見送れますから」と言ってくれた。
その会話をスピーカーで聞いていた私は、何と心ある看護をして下さったのだろうと涙が溢れた。
この日、義母だけが亡くなったのではない。
なのに激務の中、義母の遺族に寄り添ってくれる看護師さんに、夫は「もう言葉もありません。本当に最善を尽くして下さった事に感謝しかありません。疲れているのに電話を下さり有難うございます。どうか今後も気を付けて下さい」と電話を切った。

この日、イギリスでは1248人が亡くなった。
自分達と同じ思いをしている人が毎日これほどにいるかと思うと、今まで聞いていたニュースの死亡者数が、今は心に痛すぎて聞けない。
現場の医療スタッフがこのような連絡をする事も相当に負担だと思う。
泣きながら電話を受ける人もいると思う。
淡々と報告して下さる中にも寄り添う言葉がちゃんとある。

夫は言った。
「今自分の学校にも集中治療室で働く看護師のお母さんの子供が通っている。
今回改めて、その保護者たちが背負っているリスクとストレス、そしてその子供達が差別される事なく全力で守るという事が学校の使命であるということ、今回それを医療スタッフの方たちから学んだ」と言った。
「お母さんの寝ている病棟に入った瞬間、各部屋が患者で溢れ、その緊迫感と切迫感が怖いくらいだった。あの電子音がひたすら流れる大量の患者が寝かされている空間で、平常心を保ちながらプロとしていられる事は本当に可能なのだろうかと考えさせられた。なのにホットチョコレートを『良かったらどうぞ』と持って来てくれた看護師さん。ただただ感謝と尊敬を持った」と夫は私に言った。

亡くなる8時間前、息子が言った冗談を笑えるほどに落ち着いていた義母に会わせてくださった病院の対応に、ただただ感謝である。
そうして今日、私の元に子宮がんではなかった事、向こう3年は子宮がん検診が不要である事を告げる手紙が届いた。
検診を受けたあの日、義母は病院の二階に心筋梗塞の為に入院しており、私は同じ病院の地下で検査を受けた。
検査後、義母の使用済み衣類を看護師さんから受け取り、義母から「ありがとう」と電話をもらった。
あの日、電話で義母は私の子宮がん疑いを酷く心配していた。
「病院と喧嘩してでも納得行くまで検査してもらいなさいよ。イギリスの病院は言ったモン勝ちやからね」と言った義母。
今日は心の中で「大丈夫でしたよ」と報告した。
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Source: イギリス毒舌日記