「なんたって、今から25年も…、む・か・し…。」
瀧澤。
何も言えずに奈都美、
「…そう…だったんだぁ~~。尾田君…、おかあさん…。」
「でもね~~。事態は…それだけでは…済まなかった。」
店員が、
「お待たせ…しました~~。生ビールと…酎ハイになりま~~す。」
内海、
「おっと~~。ありがと。ほれ、七瀬。」
奈都美、
「あっ、は~~い、頂きま~~す。」
瀧澤、
「まずは…ほぃ、ナッちゃん。」
ジョッキをカチン。
瀧澤、生ビールを一口。
「…で、伸永のお父さん。」
奈都美、
「はい…。」
「物凄いショックで…。…それもそうだよ、愛妻…2人も…失くしたんだもん。育児に子育て。」
その言葉に奈都美、
「えっ…???でも…親族の方々…???」
そんな奈都美に瀧澤、右手を振り、
「全~~然…。…うん。…でも、最初は、やんや、やんや…だったらしいんだけど…。母親の愛情を知らない伸永…、なぜかしら…親戚のお世話にも…馴染めなかったんだって…。そんな伸永を親戚の人たちも毛嫌いして…。…やがて、それが姉にも及んだ。梨花(りか)って言うんだけどね。伸永のお姉さん。…結果的には…、伸永のお姉さん、世話になっていた親戚の家、伸永を負ぶさりながら飛び出して、自宅に引き籠り。」
奈都美、黙って瀧澤の話を…。
内海、腕組みをしながら…。
「父親もそれからは…。もぅ…、子供たちの事は自分で見るって…。…けれども…、結局は無理が祟って、ノイローゼ。挙句は鬱になって、仕舞には、その無理と鬱で体が限界。倒れて病院に運ばれて…、数日後には…。過労死だよ。…伸永、2歳。お姉さんは14歳、中学2年。」
奈都美、
「う~~っわ。」
「でもね~~。お姉さんが凄いのよ。全~~部、お父さんから生活の事、教え込まれて。中学生ながらも、お父さん仕事の時は伸永の面倒、ひとりで…。」
「へぇ~~。」
「まっ、その甲斐あって、今はもう~~。心臓外科医師の奥さん。」
奈都美、
「そうだったんだ~~。」
「まっ、梨花さん。中学時代から伸永を育てて…。頑張っては来たんだけど…。中々ね~~。両親がいないせいも…あってか…。伸永は物凄い人見知り…。しかも…内気ときている。」
内海は首を縦に、数回。
そして奈都美は、
「うん。見てても分かる。」
「…けど…、あんな伸永…なんだけど~~。」
奈都美、首を傾げて、
「ふん…???」
「勉学は…姉以上。」
そして瀧澤、
「ぷっ。笑わないでよ。梨花さん。高校は…通信制なのよ。」
奈都美、
「へぇ~~。」
「お父さんの建設会社。まっ、今や盤石…。だから、伸永のお姉さん…経済的には安定。つまりは、会社の今の状態の礎を作ったのは…お父さんの実績だったから…。会社組織が、尾田家に支援を怠ることはなかったんですって。」
そして、ひと呼吸置いて、
「なんだけど…、梨花さん、お姉さんね、甘えられないって…。だから、働きながら通信制。ちっちゃな…伸永、見ながらだもん。…しかも…、自分だって、大学でしょ。物凄い努力家。」
奈都美、
「へぇ~~。凄~~い。」
「私だって、最初に梨花さん見たとき。えっ…、この人…大学生…???って、目を疑った。物凄い貫禄。」
内海、
「ぷっ。あ…、いや…失礼。」
奈都美、
「うそ…、部長より…貫禄あり…。」
瀧澤を見ながら…、小さく顔を左右に震わせて…。
「そんなこんなで、伸永、お陰様で、高校も名門。そして、大学も芸大。彼の絵…見たら凄いよ~~。ふふ。」
奈都美、
「あっ。」
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庄司紗千 海をこえて
※ご本人の承認の下、紹介させて戴いております。
Source: THMIS mama “お洒落の小部屋